最高裁判所第三小法廷 平成元年(行ツ)142号 判決 1990年4月03日
静岡県三島市大社町五番一号
上告人
市川隆一
東京都千代田区霞が関三丁目四番三号
被上告人
特許庁長官 吉田文毅
右当事者間の東京高等裁判所昭和五五年(行ケ)第三八二号審決取消請求事件について、同裁判所が平成元年七月二五日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 坂上壽夫 裁判官 安岡満彦 裁判官 貞家克己 裁判官 園部逸夫)
(平成元年(行ツ)第一四二号 上告人 市川隆一)
上告人の上告理由
第一点 原判決の判断に判決に影響をおよぼすことが明らかな採証法則の違背がある。
1 本件特許出願発明の特許請求の範囲は、昭和五五年八月一三日付全文訂正明細書(甲第四号証)第一二頁第一二行ないし第一四頁第一四行の「本文記載の目的において本文に詳記し且図面に一例を示す如く、らせんの回転方向が同じらせん体をらせん翼の遠心力を考慮して互に遊合に這入りこむ様に並列しその外形に沿う形状の室内を形成する外筒内に装入し両らせん軸を収容している両円筒の欠円個所を利用して両円筒相互に連絡できるようにし両らせん体を同一方向に転軸して気体、液体等を送るようにした機械装置において、両円筒の欠円個所を通過するらせん翼に付着して回転する流体の遠心力でらせん翼の外側から主として接線方向に流出する流体の速度の方向とおよび遠心力のみならず曲面上にある流体が曲面により押しやられて遠心力のときと同様にらせん翼の円運動による加速度を受けてらせん翼の外側から主として半径流(輻流)方向に流出する流体の速度の方向等により合成せる真の合成速度の方向に流出する流体の運動量をらせん翼の外縁の回転円と相手らせん体の胴車外周円との共通内接線方向において接するかもしくは接しないで両らせん軸中心線を通過する方向に移行するようにして相手のらせん翼斜面と流体とが押し合う迎え角斜面の正面に相対的に動くようにし、相手のらせん体のらせん翼の回転とは逆の方向に移行するようにし、且つその共通外接線方向に移行しないようにし相手のらせん体のらせん翼の迎え角斜面の背面に対し移行するのを防止する方法をもって、外筒の欠円個所に対接するらせん翼の外縁点をよこぎる外縁点の回転円の円周接線が近くとも相手のらせん体の胴車外周と共通内接線方向において接するかもしくは接しないで両らせん軸を通過するようにし、且つ該円周接線が両らせん軸中心線の延長上で交わらないようにもしくは相手のらせん体の胴車外周と共通外接線に沿う方向において接しないように両らせん体の軸間距離を大きく引き離すようにもしくは胴車を細くするように定めたらせん翼の外縁と相手のらせん体の胴車外周との間に所要に大きい間隙7、8を設けるように両らせん体を位置させて並列し外筒内に同方向転軸可能に装入するようにそれぞれ形成した液体ポンプ、ガス圧縮機等における、らせん体のらせん翼内に輻流空胴を多数設け中心部を胴車の中空部に連通するようにしたことを特徴とするらせん翼内に輻流空胴を設けた遠心合力軸流型位相差ねじポンプ、ねじ圧縮機。」(前記した全文訂正明細書(甲第四号証)第一二頁第一二行の「本文に詳記し且図面に一例」の記載から第一四頁第一四行の「差ねじポンプ、ねじ圧縮機。」までの記載および判決、事実、第二 請求の原因の二 二丁裏七行の「本文に詳記し且図面に一例」の記載から四丁表九行の「ねじ圧縮機。」までの記載等)であって、その目的とするところは、同じ全文訂正明細書(甲第四号証)第一〇頁第七行ないし第一四行の「本願の発明は、輻流空胴又は放射状翼車通路4、4'(前記した全文訂正明細書(甲第四号証)第一〇頁第七行ないし次行の「輻流空胴4、4'」の記載は「輻流空胴又は放射状翼車通路4、4'」と補正すべきところを簡略に過ぎたものである)が外筒の欠円個所11、12を通加するとき、らせん翼2、2'の迎え角斜面の正面の表面の流体(即ち、境界層の流体)が遠心力で圧力を高くして背面(即ち、圧力負の背面)の表面に移行して逆作用(即ち、翼の揚力を減少するように逆作用)せんとするのを放射状翼車通路4、4'の中にある流体の遠心力作用で外側の出口より合成速度の方向線14等に流出する流体の運動量によって前記した「らせん翼2、2'の迎え角斜面の正面の境界層の流体が遠心力で圧力を高めて圧力負の背面に移行する」を遮断して翼の揚力を減少せんとする逆作用を防止する効果を得る(すなわち、遠心力で運動する流体の逆作用を防止することが明らかに期待できる効果を得る)こととおよび流体を放射状翼車通路4、4'内で所要の高速度で回転運動させて遠心力作用で圧力を高めて欠円個所11、12を通過するとき放射状翼車通路4、4'の外側の出口より合成速度の方向14等に流出する流体の運動量をして間隙7、8および両らせん軸中心線16等を通過する方向に流出させるようにして相手らせん翼2、2'のそれぞれの迎え角斜面の正面に相対的に動くようにし、両らせん翼の対向部における相手のらせん翼の回転とは逆の方向に移行(運動)するようにしてらせん翼間にある流体の共回り運動、漏洩もしくは逆流を防止すること」(前記した全文訂正明細書(甲第四号証)一〇頁七行の「本願の発明は、輻流空胴」の記載から一一頁二行の「逆流を防止する」までの記載および同じ一一頁一〇行の「流量を……増大」の記載から一一行の「大きくすること」までの記載等)および右に同じ一一頁一一行ないし一二頁一〇行の「又14(合成速度の方向14)等の方向に流出する流体の運動量をして両らせん軸中心線(らせん体対で、らせん体の中心を結ぶ両らせん体の軸に垂直な直線)16の延長上で交わらないように又は相手の胴車3、3'の外周円との共通外接線に沿う方向に流出せしめないように両らせん軸中心距離間隔を所要に大きすることによって14(合成速度の方向14)等の方向に流出する流体の運動量を相手のらせん翼2、2'のそれぞれの迎え角斜面の背面に対し移行せしめない様にして入口の背面に起るべき大気圧以下の吸上げ圧力を減少しないようにし、外筒の外部にある流体を大気圧を利用もしくは更に外筒入口の押し込み力等を利用して外筒内に導入する作業を阻害しないようにし、流体を外筒内に特に円滑に導入することができるようにし、らせん翼内に輻流空胴(放射状翼車通路4、4')を設けるようにして遠心力作用を一層利用して流量と揚程又は圧力比を大きくできるようにし、らせん翼を一層丈夫且軽量にすることができるようにして高速度回転を確実、容易ならしめるようにし、材料技術、加工技術の進歩と相俟ってらせん体を超高速度で回転することができるようにし、(なお本願の発明のものは、従来の軸流圧縮機における固定翼と回転翼との組み合わせのうち、固定翼のみを合理的に省略することができるようにし、従って、翼と気流との相対速度が超音速になるもので、この状態で効率よく作動させることが期待できる)よって軸の径を大きくしても機械の小型化を容易ならしめるようにし、所要の揚程又は圧力比および流量を得るとき効率よくできる。」(右に同じ全文訂正明細書(甲第四号証)一一頁一一行の「又14等の方向」の記載から一二頁一〇行の「流量を得るとき効率よくできる。」までの記載および昭和六〇年一月一六日附原告準備書面(第三回)二丁裏二行ないし八丁表七行の「五」項の記載等)
2 本件特許出願の発明は、前記した全文訂正明細書(甲第四号証)第一〇頁第七行ないし第一一行の「本願の発明は、輻流空胴(および放射状翼車通路)4、4'が外筒の欠円個所11、12を通過するとき、らせん翼2、2'の迎え角斜面の正面の表面の流体(即ち、遠心力で周囲ほど高圧になる境界層の流体)が背面の外縁の表面に移行して逆作用」の記載を「本願の発明のものは、輻流空胴又は放射状翼車通路4、4'が外筒の欠円個所11、12の区間を通過するとき、従って外筒円形室の内壁と対接していないとき且外筒内の圧力が上昇すると角ねじ山のらせん翼の外周面の表面に近づく程に空気の密度大となるため、翼斜面の正面の境界層と同じく、いわゆる気温の逆転と同様に、乱流の状態は発生し難くなることが予想できる該翼外周面の境界層を経て、そして翼斜面の正面の境界層部分でも遠心力で周囲ほどその圧力が高くなるため、比較的に高圧となる翼斜面の正面の外縁部分の境界層の高圧の流体の先行部分が、前記した、これまた乱流の状態は発生し難くなっている翼外周面の境界層を経て圧力負の翼背面の外縁の境界層の近傍に移行した先行部分が背面の外縁の境界層から中心側に向って逆に流入せんとするや、否や、今度は翼背面の遠心力で流入を阻止されて静止するとき、いわゆるベルヌーイの定理によって運動エネルギーを圧力エネルギーに変換して(速度を下げて圧力を高めて)翼背面の外縁の表面又は表面の金属面に係わる反力として保持しつつ静止する。静止すれば先行部分に後続部分が衝突するため先行部分は翼の表面又は表面の金属面から剥離して翼背面の圧力の低い流れの方に流される。なお更に後続部分が、同様にして、連続的に背面の圧力の低い流れの方向に向って流されるようになり、従って、外筒内の流体の圧力上昇のため乱流の状態は発生し難くなっている翼外周面の境界層を経て、前記した遠心力で圧力を高くした翼正面の外縁部分の境界層の流体が押し出すようにして背面の圧力の低い流れの中に流入拡散する(上述のような拡散を「遠心力作用にもとづく境界層による輻流方向の短絡漏洩」と仮称する)。そして、この「遠心力作用にもとづく境界層による輻流方向の短絡漏洩」と仮称する拡散のためらせん翼の迎え角斜面の背面に起るべき大気圧以下の吸上げ圧力を減少する。従って、翼の揚力を減少するように逆作用」と補正する用意がある。(平成元年三月一〇日附原告準備書面(第五回、第五回の二)訂正書で訂正した昭和六二年二月二二日附原告準備書面(第五回の二)九丁裏三行の「らせん翼2、2'」の記載から一〇丁裏二行ないし次行の「背面の吸上げ圧力を減少するように逆作用」までの記載)
等としたのに、
判決、理由、三の2二四丁表末行ないし同裏一行でいうように「技術的に理解することはできない。」とされた。
第二点 原判決は、本件特許出願の発明は遠心力で運動する流体の逆作用を防止する明らかな作用、効果を具備するものであることを看過してした違背がある。
1 本件特許出願の発明は、前記した、昭和五五年八月一三日付全文訂正明細書(甲第四号証)第一一頁第一一行ないし第一二頁第三行の「又14等の方向に流出する流体の運動量をして両らせん軸中心線16の延長上で交わらないように又は相手の胴車3、3'の外周円との共通外接線に沿う方向に流出せしめないように両らせん軸中心距離間隔を大きくすることによって14等の方向に流出する流体の運動量を相手のらせん翼2、2'のそれぞれの迎え角斜面の背面に対し移行せしめないようにして入口の背面に起るべき大気圧以下の吸い上げの圧力を減少しないようにして外筒の外部にある流体を大気圧を利用もしくは更に外筒入口の押し込み等を利用して外筒内に導入する作業を阻害しないようにして流体を外筒内に特に円滑に導入することをできる」(前記した全文訂正明細書(甲第四号証)第一一頁第一一行の「又14等の方向」の記載から第一二頁第三行の「導入することをできる」までの記載)ようにしたものである。従って、平成元年九月二七日付本上告理由書四丁表一〇行ないし末行の「遠心力で運動する流体の逆作用を防止することが明らかに期待できる効果を得る」(右に同じ本上告理由書四丁表一〇行の「遠心力で運動する流体」の記載から一一行ないし末行の「効果を得る。」までの記載)ようにしたものであることは明らかである。
2 これに対し、昭和三三年九月二五日附拒絶理由通知書(甲第一四号証)の理由中に挙げられた英国特許第六二〇六八四号明細書抜萃(グループXXVI)(甲第一五号証)および英国特許第六三二三六四号明細書抜萃(グループXXVI)(甲第一六号証)等の二引例は、昭和三三年一二月六日付意見書(甲第一八号証の二)第二頁第九行ないし第一四行の「英国特許第六二〇六八四号、或同第六三二三六四号各明細書抜萃の引例の何れの引例の明細書の字句および図面にも各種の流体を送る場合に機体内においてらせんを利用して推進せんとする各種の流体の共回り運動(前記した「空転」は「共回り運動」の意味である)を防止するのに推進翼の遠心力作用を利用せんとする意途を明らかにしていない」(前記した原告意見書(甲第一八号証の二)第二頁九行の「英国特許」の記載から第一四行の「意途を明らかにしていない。」までの記載)からみて、前記した英国特許の二引例のものは、前記した全文訂正明細書(甲第四号証)第七頁第五行ないし第一五行の「4、4'(放射状翼車通路4、4')の外側の出口より真の合成速度の方向線群14等の方向に流出した流体は間隙7、8および両らせん軸中心線16を通過する方に流出して相手のらせん翼2、2'の迎え角斜面の正面に相対的に動くようになり、両らせん翼の対向部における、相手のらせん翼2、2'の回転とはそれぞれ逆の方向に該真の合成速度の方向に流出した該流体は移行し、従ってそれぞれ相手のらせん翼間にある流体の共回り運動、漏洩もしくは逆流を阻止するためらせん翼間にある流体はらせん翼2、2'のそれぞれの斜面の回転による強力なねじ押しで出口10側に送出する」(前記した全文訂正明細書(甲第四号証)第七頁第五行の「4、4'の外側の出口」の記載から第一四行ないし次行の「出口10側に送出する」までの記載)の意途が、前記した英国特許の二引例のものにはその意途がないことは明らかである。
なお、本件特許出願の発明は、昭和六〇年一月一六日原告準備書面(第三回)二丁裏二行ないし五行の「本願の発明は、超音速軸流圧縮機の前段の放射状翼車通路4、4'に対し、半径の比較的に大きい中空胴車の中空部より空気を供給する方法を追加するものである。」(前記した原告準備書面(第三回)二丁裏二行の「五 本願の発明は「超音速軸流圧縮機の前段」の記載から第四行ないし次行の「方法を追加するものである。」までの記載)。
2 次に、前記した英国特許の二引例のものは、ねじ山と相手のねじ芯との間の隙間を特に小さくしてあることは引例の図面(甲第一五号証、甲第一六号証等)からみて明らかである。
従って、前記した英国特許の二引例を空気、水等を送るポンプとして用いるときは、外筒の欠円個所を通過するねじ山の遠心力でねじ山の外側から速度の方向に流出する流体の運動量のうち、欠円個所を当初流出するとき両ねじ軸中心線(ねじ棒対で、ねじ棒の中心を結ぶ両ねじ棒の軸に垂直な直線)の延長上で交わる方向に流出する流体は勿論、当初流出した爾後の欠円区間で両ねじ軸中心線を通過する方向に流出する流体は、前記したねじ山と相手ねじ芯との間の隙間を小さくしてあるため、両ねじ軸中心線の通過を阻止される結果、方向変換して両ねじ芯の回転円の共通外接線に沿う方向に運動するようになるもの等は、相手ねじ山の斜面と流体とが運転軸と平行なるような方向において押し合う迎え角斜面の背面に対し移行するようになるため背面に起るべ大気圧以下の吸上げ圧力を減少し、背面と流体とが引き合う力を減少し、外筒の外部にある流体を大気の圧力を利用して外筒内に導入する作業を阻害せんとするように逆作用するようになることが推測できる。従って、前記した英国特許第六二〇六八四号明細書抜萃(グループXVI)(甲第一五号証)および英国特許第六三二三六四号明細書抜萃(グループXXVI)(甲第一六号証)等のねじ山のねじ棒を更に一層次第に高速度で回転するときは、前記した遠心力で運動する流体の逆作用で、入口より空気、水等を大気の圧力を利用して導入することが次第に困難になるため、結局、ポンプ作業は成り立たないようになることは明らかに推測できる。
なおこれに対し、遠心力で運動する流体の逆作用を防止する作用、効果については、平成元年九月二七日付本上告理由書二頁一五行ないし末行の「すなわち、遠心力で運動する流体の逆作用を防止することが明らかに期待できる効果を得る」(前記した、平成元年九月二七日付本上告理由書二頁一五行の「すなわち、遠心力で運動する流体」の記載から一一行ないし次行の「明らかに期待できる効果を得る」までの記載)ことは推測できる。
等としているのに、
判決、理由、三の2二四丁表末行ないし同裏六行でいうように「技術的に理解することができない。そうであれば、結局、本願の発明は、ねじポンプ、ねじ圧縮機として基本的な欠陥を有するもので、原告の主張にもかかわらず、明細書、図面によるも、また、技術的観点からも、旧特許法一条にいう「工業的発明」にあたるものと認めることはできない」(判決原本二四丁表末行の「技術的に」の記載から同裏六行の「認めることはできない」までの記載)とされた。
よって、
原判決は、本件特許出願の発明は遠心力で運動する流体の逆作用を防止する格別顕著な作用効果を具備するものであることを看過してした違法があり、
民事訴訟法第三九四条に該当する。
以上いづれの論点よりするも原判決は違法であり破棄さるべきものである。
以上